高校での出前授業(DNA実験)

1日目 細菌から遺伝子であるDNAを取り出してみます。

 

 解説:遺伝子の構造と遺伝子工学の概略について

遺伝子は一本の鎖が二本より合わさってできている。

一本の鎖それぞれはA、G、C、Tという文字(化学構造)が繋がったものである。

二本の鎖になる時、AはTと、GはCとかならず向きあう。

二本の鎖は遺伝子が増える時にはほどける。温度がすごく上がるとやはりほどけてしまう。

遺伝子が増える時はほどけたそれぞれの鎖を鋳型に、それぞれ対になる鎖が合成されて二倍になる。

遺伝子操作は遺伝子を細胞から取り出す、遺伝子を切る、繋げる、細胞に入れる、機械で増幅するなどの過程の組み合わせである。

 

 実験:細菌から遺伝子(DNA)を取り出す

(1)大腸菌を培養液中で増殖させる。

(2)遠心分離により、菌体を回収する。

(3)溶液に懸濁した大腸菌を液体窒素で冷凍する。

(4)手のひらで暖めて解凍する。

(5)(3)−(4)の繰り返し。

【だんだん大腸菌が壊れて粘稠になる。これは大腸菌のDNAが出て来たことを意味する。】

(6)フェノールを加えてタンパク質を除く。

(7)この水溶液に大腸菌のDNAが含まれている。この水溶液に静かにエタノールを重層する。

(8)エタノールと水溶液の境界面をガラス棒ですくうようにすると、ガラス棒に糸状のDNAが巻き付いてくる。これを巻取って回収する。

【どろどろで糸状のDNAを実際に見ることで、DNAの物質としてのイメージを掴んでください。】

(9)ガラス棒に巻き付いたDNAを取り出して実験終了。

   

    図1;大腸菌の構造  図2;DNAの構造   図3;DNAの複製

 

 図4;DNAは逆向きの2本の鎖からできています。それぞれの鎖にはA、G、C、Tで表される化学構造が飛び出していて、AはTとGはCとかならずむきあうようになっています。この約束がかならず守られるので、2本の鎖をほどいてもそれぞれを元に複製、再生できるのです。

 

図5;DNAの複製のしくみ。

   ジッパーが開くように2本の鎖がほどけ、それぞれの相手が復元されるので同じものが2つできる。コピーされたDNAは子供に受け継がれる。

 

 ヒトのDNAはA、G、C、Tが約30億個つながったものです。A、G、C、Tの間の間隔は約0.34 nm、DNAの太さは約2 nmぐらい。

 DNAの複製の間に間違いが起こったり、紫外線などによってDNAが傷ついても、修復できるようになっています。

 複製される時に鎖がのびる方向が決まっているので、一方の鎖はどんどん長く延ばすことができますが、逆の鎖は少しずつ延ばしては繋いでいく、という方法をとります。

 

 

2日目 アガロースゲル電気泳動によるDNA断片の分離と観察

 解説:遺伝子の切断と電気泳動による断片の分離について

遺伝子は制限酵素によって特定の場所で切ることができる。

切った遺伝子は連結酵素によって繋げることができる。

遺伝子はマイナスに帯電した糸(鎖)として考えてよく、電場の中に置かれるとプラスの方に向かって流れ出す。これが電気泳動。

遺伝子の断片は電気泳動で長さごとに分離することができる。

 

 実験:電気泳動によりDNA断片を分離してみる

(1)いろいろな制限酵素でいろいろなDNAを切断する。

(2)アガロースゲルを作製する。

(3)電気泳動装置を準備する。

【電気泳動装置に泳動液、ゲルをセットします。泳動が始まったら感電の危険があるので十分に注意すること。】

(4)サンプルをセットして電気泳動を開始。

【感電に注意。色素の流れ具合を参考に、泳動の進みを観察します。泳動の終了まで20分−30分です。】

(5)電気泳動を終了する。

(6)ゲルを染色、脱色する。

(7)ゲルを観察していろいろな移動度にわかれたDNAを観察して終了。

 

図6;制限酵素はDNAを決まった配列の所で切断する。

いろいろな生物がそれぞれ異なった制限酵素を持っています。異なる配列を認識する制限酵素を組み合わせて用いることで、自在にDNAを切ることができます。制限酵素には4つの文字を認識するもの、6つの文字を認識するもの、8つの文字を認識するものなどがあります。文字の配列が2本の鎖の上と下とで逆にならんだようになっているのが特徴です。

たとえばEcoRIという酵素の場合

...GAATTC... → ...G AATTC...

...CTTAAG... 切断 ...CTTAA G...

となります。図6にある他の酵素の場合、どうなるかわかりますか?

 

図7;DNA組み替え技術による新しい遺伝子の作成。

 制限酵素でDNAを切り、連結酵素(DNAリガーゼ)でDNAを繋げます。自在にDNAを切り張りしていくことで、有用な遺伝子を作っていきます。

 切り張りした遺伝子はほとんどの場合、大腸菌に取り込ませることにより大腸菌が増える時に一緒に増えるようにしてやって、必要な量まで増やしてやります

 また、遺伝子の機能を調べるために細工をした遺伝子を動物細胞や植物細胞に入れることもあります。ヒトの細胞である遺伝子が壊れてしまって病気になったときに、壊れた遺伝子を外部から入れてやることで補ってやるのが遺伝子治療です。

 

図8;アガロースゲル電気泳動。

 アガロース(寒天)は網目構造をしていて、小さな隙間がたくさんあります。DNAはマイナスに帯電した糸(鎖)としてふるまうので、電気を流すとプラスの方に向かって流れます。長いDNAはアガロースの網目の中をゆっくりとしか動けませんが、短いDNAは速くくぐり抜けることができるので先にいってしまいます。結果的に、長さの違うDNAを電気泳動で分離することができます。

 この方法を使うと遺伝子を長さごとに分離できるので、制限酵素で切ったDNA断片の中から必要な部分だけを取り出すことができます。

 電気泳動にはアガロースゲル電気泳動のほかにポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、パルスフィールド電気泳動などがあります。ポリアクリルアミドゲル電気泳動は非常に短いDNA断片の分離に、パルスフィールド電気泳動は逆に長いDNA断片の分離に使われます。アガロースゲル電気泳動は簡単でよく使う長さのDNA断片の分離に向いているので、一番よく使われる方法です。

   

図9;φX174というウイルスのDNAをいろいろな制限酵素で切った時の

電気泳動結果。

 制限酵素によって切れる場所が異なるので、同じDNAでも用いる制限酵素によって生じる断片の長さが違います。

 一番右は長さの決まったDNAを電気泳動したしたときの流れ方です。間隔が対数的になっているのが分かりますか?つまり、1500のものは3000のものの2倍ぐらい流れています。2000のものは4000の2倍ぐらい流れています。ある一定の範囲内の長さではこのルールが適用できるので、長さの分かっているものの隣に未知のサンプルを流すと、未知のサンプルについてその長さが推定できます。どのぐらいの長さにこの「対数ルール」が適用できるかは、ゲルの濃さによって決まります。濃いゲルほど(網目が細かいので)短いDNAにこのルールが摘要でき、薄いゲルでは長いDNAに摘要できますから、自分のサンプルによって都合のいいようにゲルの濃さを決めます。


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